デザイン思考とは、創造性を経営に反映させる方法論の一つです。デザイナーが新たなものを考えるときの思考プロセスをビジネスに引用しています。デザイン思考とも呼ばれます。
イノベーションとは、革新あるいは技術革新の意味です。企業活動において、今までと全く異なる発想や技術の導入によって、それまでになかった問題解決の手法を生み出し、社会に浸透させることを指します 。
デザイン思考は、イノベーションを創出し、多くの人を惹きつける商品やサービスを作り出して、事業を拡大するために大切な考え方だと言われています。
デザイン思考をリードしてきたのは、アメリカのデザインコンサルティング会社IDEO(アイデオ)です。ショッピングカートを五日間でデザインするプロジェクトが全米テレビ局で紹介されたことから、その独自の手法が世界的に知られることとなりました。
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技術中心から人間中心の視点へ
デザイン思考の元になっているのは、人間中心という視点です。これは、従来までのものを中心とした考え方である技術中心と根本的に違う点です。技術中心では、新しい技術を開発することにより、新しい価値を生み出してきました。しかし、イノベーションでは人間社会に現れる様々な課題の発見と解決から生まれます。そこで人間の営みに寄り添い、そこから課題を見いだすことが、イノベーションの源泉になる人間中心という考え方が注目をされるようになりました。デザイン思考が注目を集めている背景には、技術中心から人間中心への変化があります。
デザイン思考が注目される理由
デザイン思考が注目を集めている背景として、2つの産業革命による顧客と企業の関係性の変化が挙げられます。
✔コンピュータの登場(第三次産業革命)
一つ目は、コンピューターの登場による第三次産業革命です。
コンピューターの登場に後押しされる形で、モノと人とのやり取りが増加しました。例えば、コンピューターを動かすには人間からの入力が必要です。入力ツールであるキーボードやマウスが使いやすいかどうかは、人の使い方をよく見ないとその妥当性を判断することがより難しくなりました。
✔インターネットの登場(第四次産業革命)
二つ目は、インターネットの登場による第四次産業革命です。
企業が、消費者と直接コミュニケーションを取りやすくなり、個別の対応もしやすくなりました。また、個人も世界中に情報を発信することができるようになり、マスコミュニケーションにも、影響を及ぼすようになっています。ビジネスにおいては、企業が顧客に商品を売って終わりではなく、使用量に応じた課金など長く使ってもらうことを前提としたビジネスモデルが増加しました。そのため、顧客の購買要因は機能性と価格だけでなく、そこに体験が加わりました。
例えばネット通販を例に挙げましょう。顧客の過去の購買履歴が管理されていることによってスムーズにリピート購入ができたり、自分の好みに合った商品をお勧めされ、より買い物を楽しむことができたりするなど体験を多く積んでもらうことが継続的な利用に繋がりやすくなります。よって企業にはマスの顧客ではなく、一人一人の顧客に向き合い提供する商品やサービスを一連の顧客体験として統合する力が求められているのです。
デザイン思考は、人間中心という考え方に基づき、顧客と企業の関係性の向上に役立つと考えられています。
デザイン思考のプロセス
デザイン思考のプロセスには、いくつか考え方がありますが、ここではアメリカスタンフォード大学のd.schoolが提唱する5ステップをご紹介します。
ステップ1:Emphasis (共感)
ステップ2:Define (問題定義)
ステップ3:Ideate (発想)
ステップ4:Protetype 試作
ステップ5:Test(検証)
です。各ステップについて説明します。
ステップ1:Empathize 共感
人間中心の視点では、まずユーザーを理解することが重要です。ユーザーがどんな人で何に困っていて、何を大事にしているかを深く理解し共感する。 理解するための方法として、観察やインタビューに加え、ユーザーと同様の体験をしてみることもあります。ユーザーへの共感がデザイン思考の出発点です。
ステップ2:Define (問題定義)
問題定義とは共感を出発点にして問題の枠組みを捉え直すということです。問題定義のゴールは意味があり行動を起こせる問題定義文を作ることです。共感マップやカスタマージャーニーマップなどを用いて、ステップ1(共感)で集めた多方面にわたる情報を整理して、意味づけを行います。そこから、これから取り組むべき具体的な問題を定め、文章すなわち問題定義文にして、皆で共有します。たとえば、新しい花瓶の販売を検討する際には、どんな花瓶が売れそうか求められているかよりもユーザーが日常的に無理なく、花を楽しめる方法はないかという捉え方を問題提起文にしたほうが、効果的だということです。ユーザーへの共感をアイデアにつなげるためには、ユーザーの体験から発想した問題定義が有効なのです。
ステップ3:Ideate (発想)
特定した問題に対する仮の解決策を探すために、アイデア出しをします。発想のゴールは、幅広い解決策、つまり大量のアイデアと多様なアイデアの両方を探ることです。アイデア出しの代表的な方法として、ブレインストーミングがあります。幅広い解決策のアイデアがあることで、この後のステップ(プロトタイプからテストまで)の反復をスムーズに行うことができます。アイデア出しの際には、アイデアの発想と評価を意識的に分けることが重要です。
ステップ4:Protetype (試作)
アイデアを実際に目に見える形にするように作ります。プロトタイプを作ることで、ユーザーへの理解が深まるばかりでなく、クライアントやユーザに見せることで一緒に解決策を改善することができます。プロトタイプはユーザーと対話できるものであれば、何でも構いません。完成品に近い具体的なものの形だけを指すのではなく、ポストイット、ロールプレイング、空間インターフェイスから storyboard まで、物質的にイメージをさせる形であれば、全てプロトタイプです。ユーザーから、より豊かな感情と反応を得られるものがより良いプロトタイプの条件です。
ステップ5:Test (検証)
プロトタイプをユーザーの実際の生活の中で評価します。改善のための具体的なフィードバックを得ることが目的です。テストは解決策やアイデアをより良いものにするためのまたとない機会です。プロトタイプの段階では解決策の良い点に焦点を合わせて行動しますが、テストでは解決策に改善の余地があると考えながら取り組みます。例えば、テストの段階でユーザーにとって使いづらいところが見つかったとします。その場合、使いづらいのはどこなのかを発見するために、再度プロトタイプを作成したり、そもそもの問題定義がずれていなかったかなどを検証します。
デザイン思考では、これらの5ステップを気軽に何度も行ったり来たりしながらどんどんブラッシュアップしていくことがポイントです。
デザイン思考の事例
事例:iPhone
製品とそれに付随するサービスを作り出した例として、アップル社の iPhone があります。 iPhone の登場は、それまでの携帯電話機の役割と概念を根本から覆しました。人々が、携帯電話やパーソナルコンピューターに求めるものは何か?日々のモバイル通信に困っていることは何か?というユーザーニーズから発想した商品開発の代表的な例です。製作されたプロトタイプは何ダースにも及ぶと言われています。さらにアプリケーションを売買するプラットフォームを提供することにより、人々が自分だけのマルチツールを肌身離さず持ち歩くことになったのです。かつての主役だった音声による通話はもはや一つのアプリケーションは1機能でしかありません。
事例:エキナカ
駅という場所を発想の転換で全く新しい物販・飲食スペースに変身させた事例もあります。JR東日本のエキナカです。エキナカ成功の先鞭をつけた品川駅や大宮駅のプロジェクトでは、リーダーを始めメンバーは実際に役に立ち行き交う人々の観察を行いました。駅を利用する人々をつぶさに観察することによって、人が通過する場としての駅の捉え方から人が集う場に発想を転換し、物販飲食を行うという企画を立てたそうです。今となっては、エキナカビジネスは企業の中核事業となっています。
留意点
✔最終的に解決したいゴールがないと得られるものが少ない
デザイン思考は、問題解決の方法論です。よって最終的に解決したい課題やビジョンがないと得られるものが少なくなってしまいます。
✔楽しんで取り組む
またアイデアを発想するという観点からは楽しんで取り組むことが重要です。楽しまないと解決策なアイデアは湧いてきません。
✔組織として取り組むためには上層部の巻き込みが不可欠
デザイン思考の適用範囲は、組織内での事業課題の解決新規事業の創出企業文化の変革へと広がっています。多様なチームメンバーの共同やユーザーとのコラボレーションによって、創造性を経営に反映しイノベーションにつなげていきましょう。