子供向け知育教育会社の山口さんとリーダーの林さんが小学生向けプログラミング教室について話しています。
山口さんは、プログラミング教室に通う小学生の人数について、全く検討がつかないようです。そのため、林さんは、それならば入手しやすい情報を組み合わせて推定するフェルミ推定の考え方を参考にしてほしいと言いました。
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フェルミ推定とは?
フェルミ推定とは、正確な数値がすぐに分からない時に比較的入手しやすい情報などを基に概算値を推計する思考法です。ビジネスの世界において、意思決定をするための全ての数値情報が揃っていることはめったにありません。例えば、新規事業を始める際の潜在市場規模など不確実な要素の多い中で、素早く数値を求めたいときに役立つのがこのフェルミ推定です。なお、フェルミ推定はコンサルティング会社の入社試験などで使われる考え方でもあります。候補者に日本にある電柱の数は何本かといった質問をし、候補者が導き出す回答から論理的思考を素早くできる人かどうかチェックします。イタリアの物理学者エンリコフェルミが、その名の由来です。
フェルミ推定の事例
実際の例を用いて、フェルミ推定をしてみましょう。ここでは日本の映画館で購入されるポップコーンの市場規模を考えてみることにします。しかし、映画館で購入されるポップコーンに限定して調査されたデータを探すのは難しそうですね。そこで、まずは簡単な式で表せないかを考えるのです。
例えば、
ポップコーンの市場規模=映画館でポップコーンを買う人の数×平均単価
と表すことができます。ただ、これでも映画館でポップコーン買う人が何人いるかそのものを示したデータがあるとは限りません。
そこで、もう少し分解してみます。例えば、
映画館の延べ入場者数 × 入場者数のうち、ポップコーンを買う割合×平均単価
と考えることができます。
このように求めたい数値を、+、-、×、÷の四則演算の式で表せないか考えていくのです。式を作ったら入手可能なデータや仮説に基づいて推定した数値をその式に当てはめて計算します。
先ほどの「ポップコーンの市場規模」について、
日本の映画館の年間延べ入場者数×ポップコーンを買う割合×平均単価
という式を採用するとします。これらについて、データを探したり仮説を立てたりしていきます。
国内の映画館入場者数は、統計データを入手することもできますが、さらに分解して推計することもできます。例えば、日本人のうち、映画館に行く人はおよそ3人に1人。その人たちが平均して年に4.5回行くと仮定します。それに、日本の人口1億2000万人の1/3で4000万人×4.5回で延べ1.86人と推定できます。そして、映画館でポップコーンを購入する人の割合とポップコーン平均単価、これらも同様に推測で、それぞれ5人に1人400円と仮定します。これらに基づき計算すると、映画館で購入されるポップコーンの市場規模は144億円という数値が導かれます。
さらにクロスチェックをすると、推計値はより実態に近づきます。クロスチェックとは、別の式を作り、その式で算出された値が最初の推定値に近いかどうかを確かめることです。ここでは、映画館で購入されるポップコーンの市場規模映画館の売店売上高×売店売上に占めるポップコーンの割合という式を作ってみます。映画館の売店売上高はデータを見つけることができます。経済産業省の統計によれば、約413億円でした。その3割がポップコーンの売り上げだと仮定します。数値は124億円となり、先ほど導き出した144億円と近いので、 推計値としては十分適切だと判断できます。
フェルミ推定をするための3つの力
私たちが精度の高いフェルミ推定をするためには三つのを考える力を養うことが必要です。まず、
✔論理的思考力
求めたい数値を式に分解するのに必要なスキルです。この時、考え漏れがあってはいくら個々のデータが正しくとも、適切な数値は出ません。
✔仮説構築力
確実に正解と言えるデータが手に入らない中で、似たようなケースから類推したり何らかの条件を置いたりしながら、こうすれば実態に近い値が求められるのではないかな仮説を導く能力です。
✔当該分野に関する知識
推定のスピードや精度に差が出てきます。例えば、ポップコーンの例で言えば映画館の売店のポップコーンはだいたいいくらか?この知識があるのとないのとでは、推定スピードや精度が違いますね。
これらの考える力をもとに計算式に考え漏れがないか?自分に都合のよい条件ではないか?論理が飛躍していないか?といった観点からチェックすることで精度を高めることができます。
それでは山口さんの例に戻りましょう。子供向け知育教育会社の山口さんは、プログラミング教室に通う小学生の人数を割りだそうとしています。
プログラミング教室に通うだろう小学生の推定値は、まず日本の小学生数と習い事をしている小学生の割合を掛け合わせ、習い事をしている人数を割り出しました。その後、小学生の習い事は親の意向が強いですから、今後プログラミングを習わせたい親の割合を掛け合わせました。
638万人と × 8割 × 3.7% = 18.9万人
となりました。思ったより多いですね。
入手しやすいデータでもある程度予測できるんだ。今度は別のデータや計算式から推定し、
同じような値になるか?クロスチェックしてみてくれたまえ。
留意点
✔推定値は、様々な計算式や数値が考えられる。何パターンか求めてクロスチェックすると精度が高まる。
フェルミ推定は、このデータで求めるべきという正解ありません。推定値は様々な計算式や数値から考えることができます。何パターンか求めて、クロスチェックすると精度が高まります。求められる精度は、推定の目的や与えられた時間によって変わります。
✔不確実な要素が大きい場合は、桁が合っているかどうかを精度の判断基準とする。
不確実な要素が大きい場合の精度の判断基準の一つは、複数算出した推定値の桁が合っているかです。例えば新規事業の市場規模が計りにくい場合、最初の推定で1000億円、別の推定で3000億円であれば、1000億から3000億の間で推定値を設定すれば良しとします。
✔精度を高めるために、異なる意見や知識を持つ人と、多様な視点で考える。
精度を高めるために異なる意見や知識を持つ人と多様な視点で考えると良いでしょう。一人で考えた際の思い込みや、先入観を排除でき、 クロスチェック の役割を果たすと考えられるからです。集合知の成果が出やすい考え方とも言えます。
不確実な数値を短時間で論理的に概算できるフェルミ推定を仕事の中で活かしていきましょう 。